1.再生不良性貧血とは
(出典元:難病情報センター(平成23年9月現在))
再生不良性貧血は血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する疾患です。この状態を汎血球減少症と呼びます。
重症度が低い場合には、貧血と血小板減少だけがあり、白血球数は正常近くに保たれていることもあります。
白血球には好中球、リンパ球、単球などがあり、再生不良性貧血で減少するのは主に好中球です。
これらの血球は骨髄で作られますが、再生不良性貧血で骨髄を調べると骨髄組織は多くの場合、脂肪に置き換わっており、血球が作られていません。
そのために貧血症状、感染による発熱、出血などが起こります。
2.再生不良性貧血の原因はわかっているのですか?
骨髄中の造血幹細胞が何らかの原因で傷害されて起こる病気です。
造血幹細胞とは、骨髄中にあって、赤血球、好中球、血小板の基になる未熟な細胞です。
赤血球、好中球、血小板は骨髄で完成すると血液中に放出され、その後赤血球は約120日、好中球は半日、血小板は約10日で壊れます。
健康な人では造血幹細胞からこれら3種類の血球が絶えず作り続けられて、毎日壊れた血球分を補っています。
再生不良性貧血ではその造血幹細胞が何らかの原因で傷害されるため、3種類の血球が補給出来なくなっています(図1)。
図1.再生不良性貧血発症のメカニズム
再生不良性貧血には、生まれつき遺伝子の異常があって起こる場合と、そうでない場合があります。生まれつき起こる(先天性の)再生不良性貧血はごくまれな疾患で、その多くは、人の名前が付けられたファンコニ貧血という病気です。
後者は後天性再生不良性貧血と呼ばれ、実際にはこれが大部分を占めます。
後天性再生不良性貧血には、何らか原因があって起こる場合と、原因不明の場合があります。
約80%の例は原因不明です。残りは薬剤・薬物、放射線、ウイルスなどが原因として疑われています。
原因不明の例を特発性再生不良性貧血と呼び、原因のある例を二次性再生不良性貧血と呼びます。
特発性再生不良性貧血の大多数は自己免疫的な(免疫を司る細胞が自分の細胞を攻撃する)機序による造血幹細胞の傷害が原因と考えられています。
免疫というのは、外からの細菌やウイルスの感染を防ぐための体のしくみであり、主に白血球の中のリンパ球が担当しています。
一方、自己免疫反応とは、このしくみが何らかの原因で変化した結果、リンパ球などが自分自身の細胞を傷害するようになることを指します。その結果起こる病気は自己免疫疾患と呼ばれています。
特発性再生不良性貧血においては、造血幹細胞が自分自身のリンパ球によって傷害されると考えられています(図1)。
ただし、すべての特発性再生不良性貧血がそのような自己免疫反応によって起こっているわけではなく、一部の例では造血幹細胞自身の異常が原因と考えられています。
3.再生不良性貧血はどのような症状がおきますか
赤血球、好中球、血小板の減少によってさまざまな症状がおこります。
赤血球は酸素を運搬しているため、その減少によって酸素欠乏の症状が起こります。酸素欠乏は主に脳、筋肉、心臓に起こります。脳の酸素欠乏でめまい、頭痛が起こり、筋肉の酸素欠乏で身体がだるくなったり、疲れやすくなったりします。心臓の酸素欠乏により狭心症様の胸痛が起こることもあります。それ以外に、身体の酸素欠乏を解消しようとして呼吸が速くなったり、心拍数が多くなったりします。呼吸が速くなったことを息切れとして感じ、心拍数が速くなった状態を動悸として感じます。赤い赤血球が減るため顔色も蒼白になります。
白血球のうち好中球は主に細菌を殺し、リンパ球は主にウイルス感染を防ぎます。したがって、好中球が減ると肺炎や敗血症のような重症の細菌感染症になりやすくなります。
血小板は出血を止める働きをしているので、少なくなると出血しやすくなります。よく見られるのは皮膚の点状出血や紫斑です。それ以外に鼻出血・歯肉出血や、血小板減少がひどくなると脳出血・血尿・下血などが起こります。
4.治療法の種類
治療法としては、
1)免疫抑制療法
2)骨髄移植
3)蛋白同化ステロイド療法
4)支持療法
があります。特発性でも二次性でも、いったん発症すると治療は同じです。
免疫抑制療法とは、造血幹細胞を傷害しているリンパ球を抑えて造血を回復させる治療法です。抗胸腺細胞グロブリン(英語の頭文字をとってATGあるいはALGとも呼ばれています)とシクロスポリンいう薬が使われます。
骨髄移植は、患者さんの骨髄細胞を他の人の正常な骨髄細胞と取り換える治療法です。HLAという白血球の型のあった兄弟姉妹あるいは骨髄バンクの骨髄提供者から骨髄細胞をもらい点滴します。最近では臍帯血移植も試みられています。
蛋白同化ステロイドは腎臓に作用し、赤血球産生を刺激するエリスロポエチンというホルモンを出させるとともに、造血幹細胞に直接作用して増殖を促すと考えられています。
再生不良性貧血の重症度(ステージ)は白血球、赤血球、血小板の数と輸血を必要とするかどうかによって表1のように分けられます。
表1 再生不良性貧血の重症度基準(平成29年度改訂)
※:成熟した赤血球になる直前の状態の赤血球
病気の程度(重症度)によって治療を変える必要があります。
なお、以上の情報は、
難病情報センター(公益財団法人難病医学研究財団)のホームページ
の再生不良性貧血の掲載内容(平成23年9月現在)を抜粋して掲載しています。
ステージ別の治療方法の他より詳しい情報は、
難病情報センターホームページの再生不良性貧血のページ
をご覧下さい。
また、
もご覧下さい。
1.不応性貧血(骨髄異形成症候群, MDS)とは
(出典元:難病情報センター(平成24年12月現在))
赤血球、白血球、血小板といった血液細胞(血球)は骨髄の中で造血幹細胞といわれる細胞より作られます。血球の寿命は短いため、骨髄の中では生涯にわたり大量の血球が作り続けられていますが、何らかの理由で十分に血球が作られなくなると、血球減少(貧血、好中球減少、もしくは血小板減少)がおこります。不応性貧血というのは、造血幹細胞に異常が生じ、十分な量の血球を作ることができなくなり、その結果血球減少を起こす病気です。異常な造血幹細胞から作られた血球は、形態も異常となります。このように、造血幹細胞に内在する異常の結果、血球形態にも異常を生じることを異形成と呼びます。最近では、血球形態の異形成と血球減少を認める疾患群ということから、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome; MDS)という名称が一般的に用いられています。骨髄異形成症候群の患者さんは経過中に急性骨髄性白血病になる危険性が高いことも知られています。
2.この病気の原因はわかっているのですか
実際の発病に関わる原因は現在もなお全く不明です。年齢とともに発症率が高まること、ならびに抗がん剤や放射線治療を受けた患者さんで発病率が高いことから、自然界を含む放射能被曝、化学薬物ならびに天然の発がん物質への曝露との関連が示唆されています。老化現象や有害物質により、造血幹細胞の遺伝子損傷がおこり、修復できないままに損傷が蓄積されていった結果、異常な造血幹細胞が生まれ、骨髄異形成症候群を発症するのでないかと考えられています。
3.この病気ではどのような症状がおきますか
頻度の高いのは血球減少に伴う症状ですが、白血球異常に由来する症状が見られることもあります。血球減少による症状としては、貧血症状、つまり、顔色不良、息切れ、動悸、全身倦怠感、脱力感、労作時の易疲労感が見られます。高度の白血球減少がおこれば、細菌やかびなどの病原体に対する抵抗力が低下し、肺炎、腸炎、さらには敗血症といった感染症を起こします。血小板が少なくなるとささいなことで出血しやすくなり、軽度の打撲で大きなあざをつくる、歯磨き後の歯肉出血が止まりにくい、鼻出血を繰り返す、といった症状が見られますが、外傷や感染症を契機として頭の中や胃腸などに重大な出血を起こすこともあります。また、機能が異常の白血球が作られることで、原因のわからない熱が続いたり、関節が腫れたり、広い範囲に皮疹がでることもあります。
4.この病気にはどのような治療法がありますか
骨髄異形成症候群の患者さんでは、血球減少による種々の症状以外にも、急性骨髄性白血病になりやすいという問題点があります。骨髄異形成症候群を経て生じた急性骨髄性白血病に対して、抗がん剤治療の効果は十分でありません。そこで、末梢血や骨髄の検査所見に基づいて、白血病へのなりやすさを予測し、治療法を決めています。
白血病になる危険性が低い患者さんでは、主に血球減少に対する治療を行います。血球減少に伴う症状がなければ経過を観察するのみですが、貧血症状が強くなれば赤血球輸血を、血小板減少のため出血傾向が見られる場合には血小板輸血を行います。頻回の輸血が必要となった患者さんには同種造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)やアザシチジン投与も検討されます。また、特別な染色体異常(5番染色体長腕の欠失)が血液細胞に見られる場合には、レナリドミドが貧血改善に有効です。
白血病になる危険が高いと推測された患者さんに対しては、輸血など必要な支持療法を行いつつ慎重に経過観察をおこない、必要に応じて同種造血幹細胞移植を行います。移植が行われない場合にはアザシチジンが投与されます。また、状態に応じて抗がん剤治療がなされる場合もあります。
なお、以上の情報は、
難病情報センター(公益財団法人難病医学研究財団)のホームページ
の不応性貧血(骨髄異形成症候群)の掲載内容(平成24年12月現在)を抜粋して掲載しています。
造血幹細胞に後天的な遺伝子異常が起こることで、赤血球が補体という蛋白で壊されやすくなる(溶血)疾患で、貧血、腹痛、様々な血栓症を呈します。溶血は夜間に起こることが多く、この場合、早朝尿で強い暗赤色(コーラ色のヘモグロビン尿)となり、日中は色が薄くなります。再生不良性貧血から本症に移行したり、本症から白血病に移行することがあります。
なお、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の病状、診断、治療に関する情報については、
PNHSource.JP-PNHのホームページ
をご覧下さい。
また、患者会については、
PNH倶楽部のホームページ
をご覧下さい。
再生不良性貧血には生下時にすでに病気の原因をもっている先天性のものがあり、このうちで最も頻度が高いのがファンコニー貧血です。ファンコニー貧血は種々の外表奇形や内臓奇形を伴うことが多く白血病、MDS、固形がんを発症しやすいという特徴があります。その原因はDNA架橋剤という薬剤で染色体異常が起こる染色体脆弱性であり、13の遺伝子が関与することが明らかにされています。
先天性再生不良性貧血の一つで、ほとんどの場合生後1年以内に赤血球産生だけが選択的に低下し、著明な貧血を来します。成長の遅延や先天性の奇形(骨格、親指、心臓、泌尿器)を30~50%に認めます。近年、ダイアモンドブラックファン貧血の患者にリボソームタンパク質遺伝子の異常が次々と見つかっています。
先天性再生不良性貧血の一つで、皮膚の網状色素沈着、爪の変形・萎縮、舌の白板症を特徴とし、再生不良性貧血を発症します。テロメアという染色体の一部の長さを測定することが、診断に有用です。成人後に高率に固形がんを発症します。
先天性再生不良性貧血の一つで、好中球減少が先行する骨髄不全、膵臓からの消化液の不足による慢性の下痢、骨格異常を伴い、幼児期までに発症します。ファンコニー貧血と同様に高率に白血病やMDSに移行しますが、固形がんの合併はありません。